ジンの原料を香りで分類!ボタニカル知識で味わいの解像度を上げる

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クラフトジンを選ぶ時、ラベルのボタニカル名から香りを想像するのは難しいものです。

この記事では、ジンの味わいの核となる「ボタニカル」を、香りの系統別に解説します。

味わいの解像度を上げ、ジン選びを次のレベルへと引き上げましょう。

目次

ジンの味わいを決めるボタニカルの基本構造

ジンの味わいを決めるボタニカルの基本構造

ジンの風味を理解するには、まずその骨格を知ることが重要です。

多くのジンには共通する3つの基本的なボタニカルが存在します。

これらは「ジンの聖なる三位一体」とも呼ばれ、それぞれが重要な役割を担っています。

この3つの役割を押さえることが、味わいの解像度を上げるための第一歩です。

主役|ジンの魂と呼ばれるジュニパーベリー

ジンの主役は「ジュニパーベリー」です。

これがなければ、法的にジンと名乗ることはできません。

まさにジンをジンたらしめる魂と言える存在です。

ジュニパーベリーはヒノキ科の針葉樹の実で、その香りは「松やヒノキのようなウッディな香り」と表現されます。

この香りの主成分はα-ピネンで、森林浴のような清々しいニュアンスを与えます。

さらに、かすかな柑橘香やペッパーのようなスパイシーさも感じられ、ジンの核となる爽やかでドライな風味を生み出します。

特に伝統的な「ロンドンドライジン」では、このジュニパーベリーのキャラクターが前面に出ています。

このジュニパーベリーの存在が、他の蒸留酒との違いを決定づけているのです。

ジンのキリッとした清涼感の源泉は、このジュニパーベリーにあると覚えておきましょう。

名脇役|香りを繋ぐコリアンダーシード

ジュニパーベリーを支える最も重要な名脇役が「コリアンダーシード」です。

葉の部分であるパクチーとは全く異なる香りがします。

その香りはスパイシーでありながら、レモンやオレンジを思わせる暖かみのある柑橘系のニュアンスが特徴です。

これは主成分のリナロールに由来し、フローラルで爽やかな印象を与えます。

ジンにおける最大の役割は、ジュニパーベリーと他のボタニカルの香りを滑らかに繋ぐ「ブリッジ」になることです。

コリアンダーシードが加わることで香りに一体感が生まれ、風味に複雑さと奥行きがもたらされます。

多くのジンで、ジュニパーベリーの次に多く使われるのがコリアンダーシードです。

縁の下の力持ち|風味を固定するアンジェリカルート

基本構造の最後を飾るのが「アンジェリカルート」です。

これはセイヨウトウキというセリ科植物の根です。

香りは、土やムスクを思わせるアーシーでドライな印象です。

このボタニカルは非常に大きな役割を果たしています。

アンジェリカルートは、香水でも使われる「定着剤」としての能力を持っています。

揮発しやすい華やかな香りをまとめ上げ、スピリッツの中に定着させる働きがあるのです。

この「縁の下の力持ち」がいなければ、ジンの香りは平坦でまとまりのないものになるでしょう。

アンジェリカルートがもたらすアーシーな香りは、他のボタニカルを支え、味わいに骨格と長い余韻を与えます。

ジンを飲んだ後に鼻に抜ける、ドライで落ち着いた香りの一部はこのアンジェリカルートが担っています。

香りの系統で解き明かすボタニカルの世界地図

香りの系統で解き明かすボタニカルの世界地図

ジンの基本骨格を理解した上で、その多様な個性を生み出すボタニカルの世界を見ていきましょう。

ここではボタニカルを主要な6つの「香りの系統」に分類して解説します。

この分類法をマスターすれば、ジンのラベルから味わいを具体的に想像できるようになります。

爽快なトップノート|シトラス(柑橘)系ボタニカル

ジンのフレッシュで爽快な香りの多くを担うのがシトラス系のボタニカルです。

これらはジンの第一印象である「トップノート」を決定づけます。

シトラスは種類によって香りのニュアンスが大きく異なります。

ボタニカル名香りの特徴
レモンピールシャープでキレのある酸味と爽やかな香り。最もポピュラーなシトラス系ボタニカル。
オレンジピール甘く華やかな香り。スイートオレンジとビターオレンジでニュアンスが異なる。
グレープフルーツ特徴的な苦味と、瑞々しくジューシーな香り。
柚子(ゆず)和柑橘ならではの、爽やかさの中に深い奥行きと僅かな苦味を感じる複雑な香り。

これらのボタニカルはジュニパーベリーとの相性が良く、ジンの味わいを明るく親しみやすいものにします。

シトラス感が特徴的な「タンカレー ナンバーテン」は、生の柑橘類を丸ごと使うことで鮮烈なシトラス感を生み出しています。

日本のクラフトジン「六(ROKU)」も、キーボタニカルの柚子がもたらす爽やかなトップノートが魅力です。

フレッシュなジンが好きな方は、シトラス系ボタニカルに注目すると良いでしょう。

複雑な奥行き|スパイシー系ボタニカル

ジンの味わいに刺激や暖かみ、深みを与えるのがスパイシー系のボタニカルです。

これらは香りの「ミドルノート」を形成し、味わいに複雑な奥行きを生み出します。

スパイスの個性は多種多様です。

  • カシア / シナモン
    甘くウッディな、温かみのあるスパイス香。
  • カルダモン
    爽やかで、少し樟脳に似た清涼感のあるエキゾチックな香り。
  • クローブ
    甘く濃厚で、少し薬のような刺激的な香り。
  • ナツメグ
    甘く、少しほろ苦い香ばしさを持つスパイス。
  • 山椒(さんしょう)
    柑橘を思わせる爽やかな香りと、舌が痺れる独特の刺激が特徴。

これらのスパイスは、他のボタニカルと組み合わさることで味わいの輪郭を際立たせます。

スパイス使いが巧みなジンとして有名なのが、ドイツの「モンキー47」です。

47種類ものボタニカルが、万華鏡のように複雑でスパイシーな味わいを生み出しています。

また、京都蒸溜所の「季のTEA」は、お茶の繊細な旨味をジンジャーなどのスパイスが下支えしています。

刺激的で飲みごたえのあるジンを探しているなら、スパイシー系がキーの銘柄がおすすめです。

清涼感と安らぎ|ハーバル(ハーブ)系ボタニカル

草原や森林を思わせる清涼感や、心安らぐ香りを与えるのがハーバル系のボタニカルです。

料理やアロマでもおなじみのハーブが、ジンの世界でも活躍しています。

ボタニカル名香りの特徴
ローズマリースーッとする強い清涼感と、松に似たウッディな香り。
タイム爽やかさの中に、少しスパイシーで土っぽいニュアンスを持つ香り。
ミント突き抜けるような爽快感と、ほのかな甘み。ジンの味わいを非常にクリーンにする。
バジル甘く爽やかで、少しアニスに似たスパイシーさも感じられる香り。
ラベンダーフローラルな印象も強いが、同時に清涼感のあるハーバルな側面も持つ。

地中海沿岸のジンや、「フォレストジン」と呼ばれるスタイルのジンでは、これらのハーブが多用されます。

ハーバルなジンの代表例が、スコットランド産の「ザ・ボタニスト」です。

島で手摘みされた22種類の野生のボタニカルが、複雑で爽やかなハーブの香りを織りなしています。

「ヘンドリックスジン」も、キュウリとバラで有名ですが、そのベースにはハーバルな爽やかさがあります。

気分をリフレッシュしたい時や、食事と楽しみたい時にはハーバル系のジンがぴったりです。

華やかなアロマ|フローラル(花)系ボタニカル

ジンの香りに優雅さと華やかさを加えるのが、フローラル系のボタニカルです。

香水のようにアロマティックで、ジンをラグジュアリーな飲み物へと昇華させます。

花の香りは繊細で、その抽出には高い技術を要します。

  • エルダーフラワー
    マスカットやライチを思わせる、甘くフルーティーで上品な香り。
  • カモミール
    熟したリンゴのような、優しく穏やかで、少しハチミツのような甘い香り。
  • ハイビスカス
    香りは控えめだが、美しいピンク色と爽やかな酸味をジンに与える。
  • ローズ
    「香りの女王」の名にふさわしい、高貴でアロマティックな香り。
  • 桜(さくら)
    繊細で、桜餅を思わせるようなほんのり甘い、和の香り。

フローラルなジンといえば「ヘンドリックスジン」が象徴的です。

ブルガリアンローズのエッセンスが、唯一無二の華やかさを与えています。

日本のクラフトジンには、桜の花や葉を使い、春を感じさせる繊細な香りを表現したものも多くあります。

サントリーの「翠 SUI」も、その爽やかさの中にフローラルなニュアンスを感じ取れます。

フローラル系のジンは、ストレートやソーダ割りで繊細なアロマを楽しむのがおすすめです。

大地の息吹|ウッディ&アーシー(根・木)系ボタニカル

ジンの味わいの土台を支え、ドライで重厚感をもたらすのがウッディ&アーシー系のボタニカルです。

主に植物の根や樹皮が使われ、香りの「ベースノート」として風味を安定させ、長い余韻を生み出します。

基本のアンジェリカルート以外にも、様々な根や木が使われます。

ボタニカル名香りの特徴
オリスルートアヤメの根。乾燥させるとスミレの花のような、パウダリーで甘い香りを放つ。香りの保留剤としても機能する。
リコリスルート甘草(カンゾウ)の根。独特の強い甘みと、少しほろ苦い漢方のような香り。味わいに複雑な甘みと粘性を与える。
ジンジャールート生姜の根。フレッシュなスパイシーさと、体を温めるような温かみのある香り。
カッシアバークシナモンに似た樹皮。シナモンよりもスパイシーで力強い、甘くウッディな香り。

これらのボタニカルは、ジンの味わいに深みと骨格を与えるために不可欠です。

多くのロンドンドライジンは、これらのボタニカルを重視しています。

例えば「プリマスジン」は、アンジェリカルートやオリスルートを含み、少し甘みがあり土っぽい豊かな味わいが特徴です。

このどっしりとした土台があるからこそ、ジュニパーやシトラスの香りが際立ちます。

クラシックで重厚な味わいのジンが好みなら、これらのボタニカルが使われているものを選ぶと良いでしょう。

ジンの個性を際立たせる地域のシグネチャーボタニカル

クラフトジンは、その土地ならではの自然や文化を「シグネチャーボタニカル」として映し込むことで、唯一無二の個性が生まれます。

ここでは特徴的な3つの地域のジンと、その魅力を紹介します。

日本が誇る和のボタニカルとその魅力

今、世界のジン愛好家から注目されているのが日本のクラフトジンです。

その魅力は、日本ならではの繊細で奥深い「和のボタニカル」にあります。

  • 柚子
    爽やかなトップノートを与え、ジンの味わいを明るくします。
  • 山椒
    柑橘系の香りとピリッとした刺激的なアクセントを加え、後味を引き締めます。
  • 玉露
    他のスピリッツにはない「旨味」と、上品な甘み、そして僅かな渋みをもたらします。
  • 檜(ひのき)
    日本の森林を思わせる、清々しく落ち着きのあるウッディな香りを与えます。

  • 桜餅のような、ほんのり甘くパウダリーな、春らしい繊細な香りを加えます。
  • 紫蘇(しそ)
  • 独特の爽やかな清涼感と、和のハーブらしい香味を添えます。

これらの和のボタニカルを巧みに組み合わせた代表格が「季の美 京都ドライジン」です。

米から造るライススピリッツをベースに、玉露や柚子、山椒など11種類のボタニカルを使用しています。

ボタニカルを特性に応じて別々に蒸留しブレンドするという、手間のかかる製法で造られています。

サントリーの「六(ROKU)」や広島の「桜尾ジン」なども、日本の自然と職人技が融合した世界に誇るべきジンです。

スコットランドの自然が育むボタニカル

ウイスキーの聖地スコットランドは、高品質なクラフトジンの産地としても注目されています。

スコットランドのジンは、その厳しくも美しい自然で育まれたユニークなボタニカルが特徴です。

象徴的な存在が、アイラ島で造られる「ザ・ボタニスト」です。

このジンは基本の9種に加え、アイラ島に自生する22種類の野生のボタニカルを専門家が手摘みして使用しています。

ヘザーの花や白樺の葉など、土地の個性を色濃く反映したボタニカルが、驚くほど複雑で多層的な風味を生み出しています。

グラスに注ぐと、潮風とハーブ、花の香りが混じり合ったアロマが立ち上ります。

スコットランドのジンは、まさに「大地の恵み」を感じられる一本です。

地中海の恵みを感じるボタニカル

太陽を浴びた地中海の空気を感じさせるジンもあります。

スペインで造られる「ジンマーレ」はその代表格です。

このジンは、その土地の食文化に根ざしたボタニカルを大胆に使用している点がユニークです。

キーとなるのは、スペイン産のオリーブ、イタリア産のバジル、ギリシャ産のローズマリー、トルコ産のタイムです。

これらのハーブがもたらす風味は、一般的なジンとは一線を画す、セイボリーで個性的な味わいです。

特にオリーブ由来の口当たりと、ローズマリーやバジルのハーブ香が地中海の料理を彷彿とさせます。

そのため、ジントニックのガーニッシュには、ローズマリーやオリーブを添える楽しみ方が推奨されています。

その土地の文化と深く結びついたジンは、飲むだけでその場所を訪れたような気分にさせてくれます。

ボタニカル知識を実践に活かすジン選びの3ステップ

学んだボタニカルの知識を活かし、自分に合ったジンを見つけ出すための実践的な3ステップを紹介します。

Step1 自分の好みの「香り系統」を特定する

まず、自分自身の好みを言語化することから始めましょう。

これまでに美味しいと感じたジンの銘柄を3〜5本リストアップします。

次に、それらのジンの公式サイトなどで、使用されている主要ボタニカルやテイスティングノートを調べます。

例えば「タンカレーNo.10が好きならシトラス系」「モンキー47が好きならスパイシー系」といった具合です。

この自己分析で、自分がどの香りの系統に惹かれるかが明確になります。

これが今後のジン選びの羅針盤となります。

Step2 ラベル情報からジンの香りをプロファイリングする

自分の好みの系統がわかったら、新しいジンを探します。

ボトルのラベルや商品説明文は情報の宝庫です。

まず、ボタニカルリストの記載順に注目します。

多くのメーカーは使用量の多い順に記載する傾向があり、ジンの方向性を推測できます。

次に「キーボタニカル」として強調されている原料に注目します。

これがそのジンの個性を最も象徴する香りである可能性が高いです。

学んだ知識を使い、リストのボタニカル全体から完成された風味を頭の中で組み立ててみましょう。

この技術を磨けば、試飲せずとも味わいを想像できるようになります。

Step3 キーボタニカルを軸に新たなジンを探す方法

最後のステップは、好きな香り系統やキーボタニカルを基点に、次に試すジンを探す方法です。

例えば「季の美の柚子の香りが好きだ」と気づいたとします。

そうしたら、同じく柚子をキーボタニカルに使う「六(ROKU)」などを試してみる価値があります。

あるいは「カルダモンの香りが好き」なら、オンラインストアの検索機能で探すのも良いでしょう。

自分の「好き」を軸に探索することで、効率的に好みのジンと出会える可能性が高まります。

ジン原料に関するよくある質問

ここでは、ジンに関するもう一歩踏み込んだ疑問にQ&A形式でお答えします。

ボタニカルの数は多いほど美味しいジンになる?

答えは「No」です。

ボタニカルの数とジンの品質は必ずしも比例しません。

「モンキー47」のように多数のボタニカルで複雑さを生むジンもあれば、「タンカレー」のように4種類で完璧なバランスを実現したジンもあります。

最も重要なのは、数ではなく「バランス」と「蒸溜家の哲学」です。

各ボタニカルの特性を理解し、調和するようにレシピを構築する技術が美味しいジンを生み出します。

ベーススピリッツの違いは味わいにどう影響する?

風味の土台となる「ベーススピリッツ」も、ジンの味わいを左右する重要な要素です。

ベーススピリッツの原料によって、ジンの口当たりや後味に違いが生まれます。

ベーススピリッツの原料味わいの特徴
穀物(小麦、大麦、トウモロコシなど)最も一般的。クセがなくニュートラルで、ボタニカルの香りをクリアに引き出す。
ブドウほのかにフルーティーな香りを持ち、口当たりが非常に滑らかで柔らかくなる。
リンゴリンゴ由来の微かな甘い香りが感じられ、まろやかな味わいになる。
サトウキビ(廃糖蜜)ラムの原料と同じ。甘く柔らかな口当たりと、豊かなボディ感を与える。
日本のクラフトジンでよく見られる。クリーンで、ほのかな甘みと柔らかなテクスチャーが特徴。

同じボタニカルでも、ベーススピリッツが変われば完成するジンの印象は大きく変わります。

この違いを知ると、さらに深いレベルでジンの味わいを理解できます。

「ロンドンドライジン」の原料に特別な決まりは?

「ロンドン」は地名ではなく「製法」の規定です。

ジュニパーベリーの風味が主体的であること以外、使用ボタニカルの種類や数に厳格な規定はありません。

ロンドンドライジンの最も重要なルールは製法にあります。

具体的には「高品質なニュートラルスピリッツを使用し、天然のボタニカルと共に再蒸留すること」です。

そして「蒸留後には、水とごく微量の砂糖以外は一切添加してはならない」というものです。

つまり、香料や着色料の後添加が許されない、伝統的で厳しい品質基準を持つジンのスタイルです。

まとめ|ボタニカル知識はジンを味わう最強の武器になる

ジンの原料であるボタニカルを「香りの系統」で理解することで、味わいをより具体的に捉えられるようになります。

この知識は、無数のクラフトジンの中から自分だけの一本を見つけ出し、その魅力を深く味わうための「武器」となります。

さあ、この新たな武器を携えて、次の一杯をもっと深く楽しんでみませんか?

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