クラフトジンの豊かな香りは、どうやって生まれるのでしょうか。
自分だけのオリジナルジンを作ってみたいと思ったことはありませんか。
しかし、自宅での蒸留は専門的で難しく、特に法律面での不安が大きいものです。
この記事では、日本の酒税法をクリアし、自宅で合法的にオリジナルジンを作るための全知識を解説します。
法律の解説から道具選び、ボタニカルの組み合わせ、具体的な蒸留手順まで、全ての疑問を解消します。
【最重要】自宅でのジン蒸留は合法?酒税法の壁を越える唯一の方法

結論から言うと、自宅でアルコールをゼロから作り出す「蒸留」は酒税法で禁止されています。
しかし、特定の条件を守ることで、既存のお酒に香りを移す「再蒸留」として合法的に楽しめます。
この章では、その法律の仕組みとクリアすべき条件を分かりやすく解説します。
酒税法が禁止する「酒類の製造」とは何か
日本の酒税法では、免許を持たずに「酒類を製造」することが禁止されています。
「酒類」とはアルコール分1度以上の飲料のことです。
「製造」とは、アルコールを新たに生み出したり、度数を変化させたりする行為を指します。
家庭での梅酒作りは、新たなアルコールを生まない「混和」という扱いで例外的に認められています。
一方、蒸留はアルコール度数を高める行為に直結するため、原則として厳しく規制されています。
なぜ自宅でのアルコール蒸留は原則違法なのか
蒸留が厳しく規制されている理由は二つあります。
一つ目は、国の重要な財源である酒税を確保するためです。
もう一つは安全性の観点です。
知識なく蒸留すると、失明の危険がある有毒な「メタノール」が生成・濃縮されるリスクがあります。
メタノールは飲用アルコールのエタノールより沸点が低いため、蒸留の初期段階で濃縮されやすいのです。
この危険な部分を分離する技術がないままの蒸留は非常に危険です。
合法的にジンを「再蒸留」する具体的な3つの条件

これからお話しする3つの条件を守ることで、ジン作りは「酒類の製造」ではなく「香りを移す行為」と見なされ、合法的に楽しめます。
ポイントは「新たにアルコールを製造しない」という点です。
条件1|免許製造されたアルコール度数20度以上の酒を使用する
ベースに使うお酒は、酒税法第43条11項の規定が根拠となります。
この条文は、消費者が自分で飲むためにアルコール度数20度以上のお酒に他の物品を混ぜる場合、新たな製造とは見なさないという内容です。
このルールに則り、再蒸留には必ず市販の「アルコール度数20度以上」のスピリッツを使用してください。
クセのないウォッカやスピリタスなどがおすすめです。
条件2|新たにアルコール分を発生させない
再蒸留の過程で、糖分を加えて再発酵させてはいけません。
ボタニカルと一緒にフルーツや砂糖などを加えると、新たなアルコールが生まれる可能性があります。
これは「製造」行為にあたり違法となります。
目的はあくまでベーススピリッツに香りを抽出することです。
条件3|アルコール度数が1度以上変動しないようにする
これが合法性を担保する最も重要な条件です。
国税庁の見解では、混和後のアルコール度数が混和前と比べて1度以上変動した場合、新たな酒類を製造したと見なされます。
蒸留後の原酒は度数が高いため、必ず「加水」して調整する必要があります。
元のベーススピリッツのアルコール度数からプラスマイナス1度未満の範囲に収めなければなりません。
この最終調整が、合法と違法の境界線です。
結論|この方法なら自宅でオリジナルジン作りを楽しめる
まとめます。
「①アルコール度数20度以上の市販酒を使い」「②新たにアルコールを発生させず」「③最終的なアルコール度数の変動を1度未満に抑える」こと。
この3つのルールを厳守すれば、自宅でのオリジナルジン「再蒸留」は法律に触れることなく楽しめます。
これで最大の不安は解消されたはずです。
初心者向け家庭用蒸留器の選び方|3つのタイプとおすすめモデル
法律のハードルをクリアしたら、次は相棒となる「蒸留器」選びです。
最近は家庭でも安全に扱える、スタイリッシュで手頃なモデルが多数登場しています。
ここでは、初心者でも理解できるよう、蒸留器の選び方を分かりやすく解説します。
蒸留器選びで失敗しない3つのポイント
家庭用蒸留器を選ぶ際に押さえるべきポイントは「材質」「容量」「加熱方式」の3つです。
これらを自分の目的や環境に合わせて考えれば、失敗はありません。
- 材質(銅かステンレスか)
銅製は伝統的で、不快な硫黄化合物を除去し味わいをまろやかにします。本格志向の方に人気です。ステンレス製は手入れが簡単で安価なのが魅力で、ニュートラルな仕上がりになります。 - 容量(どれくらいのサイズがいいか)
家庭用では1L〜10Lが主流です。初心者には扱いやすい「2L〜5L」程度がおすすめです。一度に500ml〜1L程度のジンを作れ、趣味として楽しむのに丁度良い量です。 - 加熱方式(直火かIHか電気か)
一般的なのはガスコンロで加熱する「直火式」です。ご家庭がIHの場合は「IH対応」モデルを選びましょう。コンセント式の「電気式」は、火を使わない手軽さと安全性で初心者に人気です。
タイプ別|家庭用蒸留器の特徴と価格帯
市場で手に入る主な家庭用蒸留器を3タイプに分け、特徴と価格帯を見ていきましょう。
自分のスタイルや予算に合うタイプを見つけてください。
| タイプ名 | 特徴 | 向いている人 | 価格帯の目安 |
|---|---|---|---|
| アランビック型 | 伝統的なタマネギ型の銅製蒸留器。豊かな香りを引き出しやすく、見た目も本格的。 | 香りを重視する本格志向の方。 | 30,000円 〜 70,000円 |
| 還流式(リフラックス) | 複数回蒸留したような効果が得られる。クリアで度数の高いスピリッツを精製可能。 | 洗練された味わいを求める方。高度な蒸留に挑戦したい方。 | 80,000円 〜 150,000円 |
| エアースチル(電気式) | 電気ポットのような手軽さ。ファンで空冷する。操作が簡単で安全性が高い。 | 手軽に安全に始めたい初心者の方。 | 25,000円 〜 40,000円 |
「アランビック型」は、ジン作りらしい雰囲気を味わえる王道タイプです。
「還流式」は少し上級者向けですが、非常にクリーンなスピリッツを作れます。
「エアースチル」は、その圧倒的な手軽さが魅力で、初めての方でも失敗の心配がほとんどありません。
【2025年版】初心者におすすめの家庭用蒸留器3選
これからジン蒸留を始めたい方へ、おすすめモデルを3つ厳選しました。
コストパフォーマンス、使いやすさ、安全性を重視しています。
- Still Spirits社「Air Still Mini」
手軽さで選ぶならこのモデルです。電気式で火を使わず、冷却水も不要。コンパクトなデザインで、「まずは一度体験してみたい」という方に最適な入門機です。 - The Homesteader’s Co-op「銅製アランビック 3L」
本格的な道具で始めたい方には、こちらの銅製アランビックがおすすめです。3Lという容量は家庭で楽しむのに十分なサイズで、まろやかで深みのあるジンが作れます。 - 汎用ステンレス製蒸留器(IH対応モデル)
オンラインショップで多く見かけるIH対応のステンレス製蒸留器も、コストパフォーマンスに優れた選択肢です。手入れが簡単で、ご家庭のIHで使えるのがメリットです。
オリジナルジンの心臓部|ボタニカルの基本と組み合わせレシピ
法律をクリアし道具も選び、いよいよジン作りの最もクリエイティブな「ボタニカル」の世界です。
ジンが「香りの錬金術」と呼ばれる所以は、このボタニカルの無限の組み合わせにあります。
ここでは、オリジナルジン作りを成功に導く知識をお伝えします。
これだけは必須|ジュニパーベリーの役割と選び方
これが入っていなければ「ジン」とは名乗れないのが「ジュニパーベリー」です。
ヒノキ科の針葉樹の実で、森を思わせる爽やかでウッディな香りが特徴です。
この香りがジンの骨格を形成します。
選ぶ際は、色が濃く、軽く潰した時に強い香りが立つものが良質です。
香りの系統別|代表的なボタニカル10選とその特徴
主役のジュニパーベリーに合わせる、個性豊かなボタニカルを選びましょう。
香りの方向性をイメージしやすいよう、5つの系統に分けて代表的なものを紹介します。
| 系統 | ボタニカル名 | もたらす香り・味わいの特徴 |
|---|---|---|
| シトラス系 | コリアンダーシード | 爽やかな柑橘香とスパイシーさ。多くのジンの第二の主役。 |
| レモンピール | フレッシュで鮮烈なレモンの香り。トップノートを華やかにする。 | |
| スパイス系 | カルダモン | エキゾチックで清涼感のあるスパイシーな香り。 |
| カシア(シナモン) | 甘く温かみのある香り。味わいに深みと複雑さをもたらす。 | |
| フローラル系 | エルダーフラワー | マスカットのような甘く華やかな香り。エレガントな印象に。 |
| ラベンダー | 優雅な花の香り。入れすぎに注意。 | |
| ハーバル系 | ローズマリー | 清涼感のあるハーブの香り。爽やかさを引き立てる。 |
| アンジェリカルート | 土っぽく苦味のある香り。他の香りをまとめ、味わいをドライにする。 | |
| ルート(根)系 | オリスルート | スミレの花のような甘い香り。香りを長持ちさせる効果も。 |
| リコリスルート | 独特の甘みとスパイシーさ。味わいに厚みを与える。 |
初心者でも失敗しない鉄板ボタニカルレシピ3選
「組み合わせが無限で分からない」という方向けに、初心者でも本格的な味わいが再現できる鉄板レシピを3つ紹介します。
まずはこれを試し、自分好みにアレンジするのが成功への近道です。
(※いずれもベーススピリッツ1Lに対する量です)
- クラシック・ロンドンドライ風
ジンの王道スタイル。ジュニパーを主役に、柑橘とスパイスが支えるバランスの取れた味わいです。- ジュニパーベリー: 15g
- コリアンダーシード: 8g
- アンジェリカルート: 2g
- オリスルート: 1g
- レモンピール(乾燥): 2g
- 爽やかシトラス&ハーバル
爽快感あふれるレシピ。柑橘の香りを前面に出し、ハーブが後味を引き締めます。ジン・トニックに最適です。- ジュニパーベリー: 12g
- コリアンダーシード: 5g
- レモンピール(乾燥): 4g
- オレンジピール(乾燥): 3g
- ローズマリー(乾燥): 1g
- カルダモン: 2粒
- 華やかフローラル&スパイシー
個性的でエレガントなジンを作りたい方向け。花の香りとスパイスが複雑に絡み合います。- ジュニパーベリー: 13g
- コリアンダーシード: 6g
- エルダーフラワー(乾燥): 2g
- カシア: 小片1枚
- ピンクペッパー: 10粒
- ラベンダー(乾燥): ひとつまみ(0.2g程度)
ボタニカルの入手方法|オンラインショップと専門店
レシピが決まったら材料の調達です。
基本的なスパイスはスーパーでも手に入ります。
専門的なものは、スパイスやハーブの専門店、オンラインショップを利用するのが確実です。
最近では、数種類のボタニカルがセットになった「ジンキット」も販売されています。
実践編|安全にジンを再蒸留する具体的な手順と注意点
いよいよ、あなたの手でジンに命を吹き込む実践の時です。
ここからは、準備から完成までの流れを5つのステップに分け、具体的な手順と注意点を解説します。
焦らず、一つ一つの工程を丁寧に進めましょう。
ステップ1|準備するものリストと事前洗浄
まず作業をスムーズに進めるため、必要なものを全て揃えましょう。
- 家庭用蒸留器
- ベーススピリッツ(ウォッカなどアルコール度数20度以上のもの)
- ボタニカル一式
- 冷却用の水と循環用ポンプ(必要な場合)
- アルコール度数計
- 計量カップ、ビーカー
- 完成したジンを入れるガラス瓶
- デジタルスケール
- キッチンペーパー、清潔な布巾
作業前に最も重要なのが、蒸留器の洗浄です。
新品は製造時の油分が付着していることがあるため、中性洗剤でよく洗いましょう。
その後、水だけで一度蒸留して内部をクリーンにするのが理想的です。
ステップ2|ベーススピリッツとボタニカルの浸漬
蒸留器がきれいになったら、ボタニカルの香りをスピリッツに移す「浸漬」の工程です。
レシピ通りのボタニカルを正確に計量します。
計量したボタニカルを蒸留器の釜に入れ、ベーススピリッツを注ぎます。
スピリッツにボタニカルを漬け込む時間を「浸漬時間」と呼びます。
時間が長いほど成分が抽出され、濃厚で複雑な味わいになります。
初心者は12時間〜24時間程度を目安に試すと良いでしょう。
ステップ3|蒸留の加熱と温度管理のコツ
浸漬が終わったら、加熱・蒸留のスタートです。
ここでの最重要ポイントは「温度管理」です。
アルコールの沸点(約78.3℃)と水の沸点(100℃)の温度差を利用し、アルコール分を先に気化させます。
中火で加熱し、温度計が70℃に近づいたら弱火に落とします。
理想は80℃〜90℃の間をキープすることです。
温度が高すぎると雑味の原因になり、低すぎると蒸留が進みません。
ステップ4|ヘッド・ハート・テールの見極めとカット
より本格的なジン作りには「カット」という技術が重要です。
蒸留液は時間と共に成分が変化します。
最初に出てくる部分を「ヘッド」、中間の美味しい部分を「ハート」、最後の部分を「テール」と呼びます。
ヘッドには有害物質や不快な香りが含まれるため使用しません。
最初の50ml〜100ml程度は別の容器に取り分けて処分しましょう。
次に、豊かなボタニカルの香りがする「ハート」が出てきます。
これが製品となる部分です。
徐々に香りが弱くなり、穀物を煮たような香りが出てきたら「テール」の始まりです。
ここで蒸留を止めます。
どこまでを「ハート」として使うか決めるのが、作り手の腕の見せ所です。
ステップ5|加水・熟成・ボトリング
蒸留したての原酒(ニュージン)が手元に集まりました。
これはアルコール度数が70〜80度と非常に高い状態です。
ここから最後の仕上げに入ります。
まず「加水」です。
精製水などを少しずつ加え、アルコール度数を目標の度数に調整します。
そして合法性のための最終調整を忘れてはいけません。
アルコール度数計で測定し、元のベーススピリッツの度数から±1度未満の範囲に収まっているか確認してください。
次に「熟成」です。
加水直後は味わいがトゲトゲしています。
瓶詰めして冷暗所で数日〜2週間寝かせると、味わいがまろやかになります。
最後に「ボトリング」です。
お気に入りのボトルに詰め、自作のラベルを貼ればオリジナルジンの完成です。
いきなり道具は不安?ジン蒸留体験ワークショップという選択肢
「ジン作りは面白そうだが、いきなり蒸留器を買うのは勇気がいる」と感じる方もいるでしょう。
そんな方には「ジン蒸留体験ワークショップ」がおすすめです。
最近では、全国のクラフトジン蒸留所などで個人向けの体験プログラムが開催されており、ワークショップでは高価な蒸留器や多様なボタニカルが用意されています。
最大の魅力は、プロの蒸留家から直接、使い方やコツを教えてもらえることです。
専門家と相談しながら自分だけのレシピを決められるのは、贅沢な体験です。
多くの場合、自分で蒸留したミニボトルをお土産として持ち帰れます。
一度ワークショップで全工程を体験し、趣味にしたいと確信してから道具の購入を検討するのも賢い始め方です。
「ジン作り 体験」などのキーワードで検索すると、近くのワークショップが見つかるかもしれません。
ジン蒸留に関するよくある質問
最後に、多くの方が抱くであろう細かい疑問点にQ&A形式でお答えします。
まとめ
「自分でもジンを作ってみたい」という想いを実現するため、法律の壁を越える具体的な方法を解説しました。
重要なポイントを振り返りましょう。
- 合法性の鍵: 「20度以上の市販酒」「新たなアルコール発生なし」「度数変動1度未満」の3つの鉄則を守る「再蒸留」であること。
- 道具選び: 「材質」「容量」「加熱方式」から最適な蒸留器を選ぶこと。
- ボタニカルの妙: ジュニパーベリーを核に、系統を意識して組み合わせ、香りを設計すること。
- 実践の心得: 安全第一で温度管理を丁寧に行い、ヘッド・ハート・テールの見極めに挑戦すること。
ジン蒸留は、ボタニカルの歴史や科学を学び、自分の手で香りを組み合わせる、奥深い趣味です。
それは知的好奇心と創造意欲を満たしてくれます。
この記事が、その素晴らしい世界の扉を開く一助となれば幸いです。
さあ、世界に一つだけのジンを巡る創造の時間を、始めてみませんか。

